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Channel: 橋本リウ詩集
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「真田丸」 第10回 資料がないのを武器にする、とはこういうことさ

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 まずはお断りを。
 失敗した人に追い打ちをかけるのは甚だ不本意なのでありますが、実はホントはしたくて仕方ない根性ワルなので、ご了承いただきたいと思います。
 というのも、今年の大河を見ていると、まるで去年の大河の失敗の原因が、とてもよくあぶり出されてくる気がしてならないからなのです。

 去年の大河、主人公が結構無名の人だったのに関連して、当初脚本を担当したおふたかたのどちらかが 「それで却って自由に描ける」 と、実にポジティヴに捉えておいででした。
 しかしその結果は(言及を避けます…笑)(その失敗のからくりは、前回のコメント欄で述べました)。

 翻って、今年の真田幸村(信繁)。
 ウィキで調べると、長男の信幸に比べてティーンエイジャー時代は(いやそれ以降もか?)ほぼなにも書いてないに等しい。
 要するに資料がないのだと思うのですが、脚本の三谷幸喜サンはその 「資料がないこと」 を完全に味方につけ、それを武器にして独自の物語を紡いでいる。 出自はあるのかもしれないけれど、「これって三谷サンの創作なのではないか」 と思うことがよくあるのです。 この第10回も、そうでした。

 しかも完全フィクションとしてではなく、史実と巧妙に繋げながらだから、物語の緊張感というのはまったく損なわれることがないんですよ。
 そこから浮き彫りにされるのは、三谷サンなりの歴史解釈、という見方もできることはできますが、どちらかというと三谷サンのストーリーテラーとしての手腕なのだ、という気がする。
 ここで三谷サンの脳内における、物語の作り方を勝手に想像してみると。

 「まず徳川と北条が手を結んだことに関連して、徳川から真田に何らかのイイワケの場があったはずだよね。
 そこに今回の物語を面白くさせるカギがある。
 この場合、真田昌幸を徳川方に行かせて家康の弁明を聞かせるべきかな? いや、昌幸は狡猾だからそんなことしないでしょ。
 じゃ、誰を真田の名代として行かせよーかなー。
 そうだ、のちに徳川の人質となる信幸に行かせよっか。
 そこでのちの妻の父親である本多(藤岡弘、サン)と絡ませたら、こりゃ面白いよ! 大泉サンに藤岡サンが 『テメー!コノーッ!』 なんてやって大泉サンがビビってさー(笑)。
 真田がたは沼田との交換条件に何を出すだろう。 そうそう、上田城! 昌幸がのちに徳川にひと泡もふた泡も吹かせる城を、当の徳川に造らせた、という事実って話としてサイコーっしょ!
 でも家康にもタヌキの片鱗をちらつかせておかなきゃネ。 そうだ、人質だったばば様を木曽義昌から譲り受けた、ということにして、それを沼田城明け渡しのひとつの材料にしよう!」。

 三谷サンの思考回路は、おそらくかようにローディングしているのだと思うのですが(笑)、まず話の軸が念頭にあって(今回に関しては沼田城と上田城の重要性の喚起と、いかにして北条・徳川の結びつきを超える力関係を構築できるか、ということ)、「どの駒をどこに配置させるか」「その駒をどのように有効に動かすか」 ということを縦横無尽に結び付けていく。
 脚本家の 「ストーリーテリング力」 というのはそこに集約されていることを、しみじみと感じさせるのです。

 しかし、沼田城を守る昌幸の叔父・矢沢頼綱が北条への明け渡しを拒絶して 「ザケンジャネエゾぉぉ~~っ! 徹底抗戦じゃああああ~~~っ!」 と(笑)齢70にて 「ジーサン頑張る」 状態になり、対応に苦慮した昌幸は、上杉ともう一度結ぶ、という選択をするのですが、この史実を前に三谷サンは、まだティーンエイジャー真っただ中の信繁を駒として使おうとするんですよ。 ちょっとこれは暴挙ではなかろうか、と。

 だって、ことこの 「真田丸」 という物語において、信繁は叔父信尹の息子として、すでに上杉に潜入して、景勝と会話まで交わしているんですよ。 その話も三谷サンのフィクション色が強いのですが。
 そんなところにまだドラクエ換算レベル15くらいの息子をもう一度送ろうっていうのは、いくら昌幸でも無謀、というものです。

 しかし三谷サンの思考回路は、「いや、昌幸の出たとこ勝負、相手を食う力。 それらをさらに視聴者に強く印象づける流れになるはずだ」、という方向に向かうわけですよ(笑)。

 だから 「策はない。 信繁、お前が考えろ」 という 「丸投げ状態」 を作り出し、信繁に 「はい?」 と 「ちょ待てよ状態」 を作り出す。 こののち、信繁は見ている側をあっと言わせる策を編み出すのですが、それは完全な 「主人公アゲ」(主人公に必要以上に花を持たせる)の展開であるとはいえ、三谷サンが本当に書きたくて仕方なかったのは 「(策は)知らん」「はい?」 という、すっとぼけたやり取りだったのではなかろうか、という気がしてくるのです。

 しかし若い信繁は、親父から丸投げ状態にされたことが、うれしくて仕方ない。 「丸投げ」 イコール 「信頼された」 ということだからです。 こういうモチベーションが、良策の源泉となっていくのですが、三谷サンはそこに、「梅に信繁の子が出来た」 というもうひとつのモチベーションをくっつけた。
 モチベーション(動機)が出来る→人が行動する→もっとモチが出来る→行動に弾みがついていく、という図式を完全に踏襲しているんですね。

 にしても信繁、手が早ぇぇな(笑)。

 上杉に乗り込んだ信繁は、さっそく自分を取り囲む兵から、無数の槍を向けられます。 しかしそれにまったく動ぜず、上杉に厚かましい依頼を展開していく信繁。
 この光景も、主人公アゲのひとつの方法でありますが、実はこれ、同じ回の前半で、徳川に出向き厚かましいお願いをして本多忠勝から 「テメコノ」 と恫喝を受けビビりまくっていた、兄の信幸との好対照を狙っている。
 こういう対比がドラマを面白くする方法だ、ということを熟知したうえでの、確信的展開なんですよね。

 信繁の駆使した策とは。

 「現在徳川が上杉の攻撃に備えて上田城を築いている。 そこにはわれら真田が配置されることになっている。 しかし実は、それは徳川に備えるためのもの。 われら真田は、徳川に味方するつもりはない。 われらの領地は、われらが戦で正々堂々と勝ち取った土地なのだ。 その領地を北条と徳川は勝手に分けてしまった。 到底受け入れられない。 武士の面目に関わる話なのである(要約)」。

 真田の一見狡賢い策は、実は武士のプライドに関わる話なのだ、という価値の逆転を、若き信繁は説得力の柱とするんですね。

 「上杉が真田に加勢するなど、天地人が…いや天地がひっくりかえってもあり得ない!」 と一喝する直江謙続。 なお一部セリフを勝手に改竄いたしました(笑)。

 「ご加勢していただきたいわけではないのです。 我らが上杉を攻めるフリをするので、撃退したフリをしてほしいのです」。

 「どーゆうこっちゃ?」(またセリフを改竄しております)

 「上杉方は、真田を倒した勢いに乗って、次は上野の北条を攻めるらしい、と噂を流します。
 それを耳にした北条は、沼田どころではなくなる。 そのための戦芝居」

 この人を食ったような、あり得ない提案を上杉景勝が呑む動機として、三谷サンは景勝の自己内省能力を利用した。 「また騙されたら、それは信繁の人柄を買った自分の器がそれまでだ、ということで、自己責任だから」 と。
 当時の状況を鑑みれば、上杉方も四面楚歌の状態で真田の提案に乗っかるしかなかった、ということなのだろうし、ドラマで演じる役者の年齢を離れて見てみれば、当時景勝も謙続も信繁も、みんな若いんですな。 まったくあり得ない話に、三谷サンはしてない。

 ただしその 「戦芝居」 のありように関しては、ちょっと疑問は残りました。 こんな程度で情報操作とか、出来んのかな、と。 徳川方の忍者ハットリくんが見てるかも知んないんだし(笑)。

 梅の話にインスパイアされた 「兵を失わずに済む戦」 を見事実行に移した信繁。 次は梅とのできちゃった結婚だー(不適切な表現)。
 この、架空の話の組み立て方にも感心します。
 しかしそのままメデタシメデタシで済ませることはけっしてしない。 徳川の次なる一手は、室賀なのであります。

 ここで室賀が、「頼られるのがうれしい、実は健気な性格」 である設定をしていることが、また生きてくるんだな。 三谷サン、さすがです。


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