今回も、まさみはやってくれました(笑)。
滝川一益(段田安則サン)のもとに真田のおばば様とり(草笛光子サン)とともに人質になっていたきり(まさみ)。 助けに来た信繁(堺雅人サン)に①開口一番 「やだっ!」(笑)。 まだ 「マジで?」 と言わないだけマシだが(笑)、「のどが渇いた」 と急かす大御所のおばば様に 「我慢してください人質なんですから」 と横柄な口を聞いていたそばからだから、まー視聴者の神経を逆なでする逆なでする(笑)。
②「助けに来てくれたのねーっ!」 と抱きつき(イラッ…笑)、「ばば様は?」 と訊く信繁につっけんどんに ③「知らない」(イライラっ…笑)。
「知らないわけないだろっ!」 とソッコーで信繁に突っ込まれ 「つまんないの」 というように拗ねる(イライライラッ…笑)。
さらに ④「も~アッチャコッチャ連れ回されてイーカゲン疲れてんですけど」(イライライライラっ…笑)。
そしていざ連れ出そうとしたときに ⑤「待って!忘れもの!」(もー早くしろよ!…笑)。 「大事なもんなら忘れんな!」 とまた突っ込む信繁が見たきりの忘れもの、それは自分がきりに 「くれてやった」(笑)粗末な櫛⑥。 「なんだ、それかよ…」 とsigh状態の信繁(笑)。
で、案の定、きりの忘れもののおかげで信繁たちは捕まっちゃうという(笑)。
そのうえ 「なにコレ? つまるところ人質がふたり(信繁と連れの者)増えただけじゃないの。 いったい何しに来たんですか?」⑦ と、自分のことは棚に上げて信繁を責める(イライライライライラッ…笑)。
しかも 「お松様(木村佳乃サン)もこの人のせいで死んじゃったんです。 次は私たちです」⑧。
あーそれを言っちゃダメでしょ(笑)。 「いい加減になさい」 とばば様にたしなめられると、いじけて 「すみませんね。 思ったことすぐに口にしてしまうタチなもんで」⑨。
ここでさらに注目すべきなのは、このきりの言いたい放題の重苦しいシーンの直後、のんきに飯を食ってる昌幸(草刈正雄サン)の妻、高畑淳子サンのもとに、「ひとりで食べてても気が滅入るので…」 と信幸(大泉洋サン)の、あの病弱の妻がやってくる、という、いかにも三谷コメディ的な展開になるところ。
病弱の妻は嚥下がうまくいかないみたいで、シャキシャキ食事している高畑サンはイライラし 「こっちが滅入る」 と早々に切り上げてしまう、という 「ぼくちゃんお勧めお笑いパート」。
しかもですよ。
昌幸は昌幸で、相変わらずあっちゃこっちゃにウソをつきながらこの危機的状況をかわそうとしている。 そろそろ視聴者も昌幸の手練ぶりに飽きてきた頃だろう、ということをまるで見透かしているかのような、この 「イライラ」 の畳みかけ的展開。
そのイライラを一手に引き受けてしまったまさみでありますが、彼女は 「若さ」 の持つ身勝手さを 「未熟な者」 として体現していることに、見ている側は気付いてやる必要がある。
まず、①の時点でまさみは信繁の思わぬ出現に、「この世でいちばん頼りになる人が現れた!」、と驚き 「マジッすか!ヤベッ!スゲー!サイコー!」 と思ってる(笑)。 まさみの心境を慮る時、信繁はあくまで、姫を助けに来た 「白馬に乗った王子様」 なのです。
その王子様というカテゴリーは、まず 「自分だけのために来てくれた」 と思いたくなるところじゃないですか、若い盛りならば。 舞い上がっちゃって②みたいな行為をするのもむべなるかな。
ところがその王子様は開口一番 「ばば様は?」。
そりゃそのばば様はですよ、信繁の祖母で身分的にも絶対服従のエライ人だから、立てるべきなのが封建時代のならわしですよ。
でも自分が好きな人がいきなり現れて、自分より 「のど乾いた~、水くれ~」 とワガママ言ってるばば様のほうを心配していた、としたら、③と言ってしまうのも分からんではない(笑)。
そして自分たちがこれまでいかに大変な状況であったかを好きな人に知ってもらいたいがために、④みたいに言ってしまう。 これは言い方を知らないがために起きてしまう問題であり、「人から誤解を受けやすいタイプ」 が陥るガチのパターンでもある。
⑤で忘れものに気付くのは、状況的に信繁がばば様をおぶって脱出しようとしていた時です。 もちろんまさみ的には信繁におぶってもらいたい。 その思いが募ったとき、まさみは信繁からもらった、黒木華チャンと露骨に差別化されてある意味では屈辱的な贈り物を忘れていたことを思い出すのですが、火急を要する状況下でそれを取りに行く、ということは、信繁になんとかかまってもらいたい、という 「身勝手な」 思いの発露であることに、見ている側はふたたび気付いてやる必要がある。
そしてスーパーマンだと思っていた信繁があっさりと捕まってしまったことに失望したまさみは⑦の言動に走るわけですが、それに対する信繁の反応の悪さに、つい禁断の⑧のセリフを口走ってしまう。
これは以前の 「真田家も人質の駒がいなくなって大変ですわねー」 と同等の発言なのですが、これは 「しっかりしろよ源次郎!」 という気持ちの、「いちばんやってはいけない励まし」 の類なのです。
そのことをたしなめられれば、「自分はそうやって励ましているのに!」 という気持ちから、⑨のように拗ねてしまう。
これらの言動はすべて、まさみの 「若くて主従関係のなんたるかも武家の女としての嗜みもなにも身についていない」、すべてが自分の尺度から生じたものであるがゆえに、常識を持っている視聴者には批判的に受け取られる。
しかしですよ。
それを 「まだ若いからいろいろと至らないところもあるよ、まさみはちょっとそれが度を越してるだけ」、と考えてやるには、ちょっとした度量、気持ちの余裕が、見ている側に必要になってくるのです。
翻って今の、特にネット社会ではどうでしょう。
誰かが何かいけないことをすれば、極めて常識的で正しい批判が沸き起こる。
ベッキーがクリーンなイメージを覆して何をしたとか高嶋ちさ子サンの子育てがどうとか、ネットでわき上がる批判のほとんどは、そりゃ全部正しいですよ。 相手の奥さんを傷つけたとか折ったゲーム機をそもそもネットで公表するのがおかしいとか。
全部正しいですよ。
今回のまさみに関しても、「現代語がおかしい」「現代のムスメ的な反応がおかしい」「やりすぎだ」。 全部正しいですよ。
でも今回のきりの行動に、「若いって時々すごい自分勝手だよな、けれどもう少し長い目で見てやろう」、という気持ちになることも必要なんではないか。 私はそう思うのです。
そして高畑サン、草刈サンといった 「イライラ」 の畳みかけが、そのまま真田家の置かれている混沌とした膠着状態と、ドラマ的に再び 「奇妙にリンクしていく」。
仕方がないんですよ、昌幸はどうやったって歴史的にもアッチャコッチャに鞍替えしながらやってきたんですから。 結果的に 「信用できない」(一益談) と評価されていくのは。 視聴者が草刈サンの演技に最初心酔し、そのうち 「またかよ」 みたいになっていくのは。
その失望の先に、三谷サンはまた仕掛けを用意していました。
結局滝川から木曽義昌(石井愃一サン)におばば様を人質に鞍替えされ、きりと戻ってきた信繁。 松の救出失敗に続いての失策に昌幸は 「バカ者!なんのためにお前をやった!」 といたくご立腹なのですが、ここで信繁に語った言葉が、これが深かった。
「失敗続きじゃな、源次郎。
お前がなぜしくじるか、分かるか?
己のカンに頼り過ぎるからじゃ(アンタもだろ、と言いたくなるのを見越してか)わしも、カンだけで生きておる。
だが、わしのカンは、場数を踏んで手に入れたカンじゃ。
それでもたまには間違える。
(だから)お前がしくじるのはあたりまえじゃ。
源次郎、よいか。
お前の兄(信幸)は、カンには頼らない。 おのずと、間違いも少なくなる。 どちらが正しい生き方か、分かるか?」
「兄上です」
「違う。
源三郎(信幸)、源次郎、合わせてひとつじゃ。
源三郎は、間違いは少ないが、クソ真面目で面白くない。
お前は、過ちを犯すが、面白い。
面白くなくては、人は動かん。
ふたつでひとつじゃ」
ここで、昌幸が言っていることは、本当はあまり大したことではありません(笑)。
けれどもそれを草刈サンがあの口調で言うと、妙な説得力が生じる。
だって信幸が正しいんじゃない、という根拠は、「クソ真面目で面白くないから」 なんですよ?(笑)
だけど、「面白くなくては、人は動かない」 というのは、それはそのまま、ドラマを見ている私たちの心にも、きちんと共鳴するセリフなのです。 だからこの大したことがないセリフが、ドラマ的に深くなるのです。 作り手と見る側の関係にまで言及している、ということで、共感が得られるのです。
その信繁に、昌幸は重要な頼みごとを新たにしてきます。 上杉の内部に裏切り者を出して背後から崩壊させよ、というのです。
これってかなり無理難題じゃないですかね。 それを失敗続きの信繁に任せようとするのには、また昌幸なりの奥の手が隠されている可能性がある。
信繁がもし自分だったらどうなのだろう、とつい考えてしまいますね。
尻込みしてしまうのではないか、と。
だからまあいろいろとうまくいかなかったのかな、などと考えている矢先、信繁は若さあふれる返事をするのです。
「やります!」
次回を刮目して待つことにいたしましょう。
最後に、「まさみまさみ」 って、長澤サン呼び捨てまくりで申し訳なかったです(ハハ…)。
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「真田丸」 第7回 過ぎたることを 「未だ」 及ばざるが如しと考えられること
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