これまで天真爛漫に戦国の世を育ってきた真田の 「小伜」 信繁(堺雅人サン)が人生で初めて味わう 「蹉跌」。 三谷脚本はその重要事を、自らのストーリーテラーとしての 「軽さ」 を逆手にとって料理した、というのが第6回 「迷走」 に対する私の感想です。 あいかわらず話の流れを形作るのがうまい。 そしてその回その回ごとに見る者の気持ちをさらっていく 「本丸の仕掛け」 が違う。
明智の残党狩りを逃れ安土城から真田の郷へと向かう信繁たち。 そこには織田の人質とされていた姉の松(木村佳乃サン)や、夫の茂誠が含まれていたのですが、あえなく見つかって追い詰められ、姉の松は断崖から身を投げてしまう。
逃れる途中で 「頼れるスーパーマン」 佐助が登場したりと、「まあそんなに深刻な事態にはならないだろう」 という気持が、視聴する側には高まっていきます。 松が断崖から湖?(安土から信濃に海はない…ですよね?)に飛び込んだとしても、「どうせ佐助が助けてくれる、すぐ見つかるよ」、例え佐助が探し出せなくてうなだれていても、視聴する側には 「ドラマのお約束」 みたいな悪しき慣習が染みついているんですね(笑)。
いわく、「松みたいなおいしいキャラを三谷サンがそう簡単に死なせるわけがない」(笑)。
これまでこのドラマ、女性陣がことごとく 「コメディパート」 を受け持っているという感覚で、木村サンはそのなかでも最近の出世作 「はつ恋」 の悲恋キャラとは正反対のキャラであったために、見ているほうは安心感(さらに言えば見くびりみたいなもの)を持って見ているわけですよ。
しかし、話が進むにつれて、信繁の落胆はさらに深まり、「これはひょっとして…」 という気持ちも、見ている側に生じてくる。 けれど同時に、「まだまだひょっこり現れる可能性は残ってる」 という気持ちになるわけです。
ここで真田の郷に帰ってきた信繁を待ち受けているふたりの女性、長澤まさみチャンと黒木華チャンの使い方が、またうまい。
長澤まさみチャンは信繁に会うなりいきなりちょっと滑舌が悪い感じで(笑)憎まれ口をたたきます。 この、「ちょっと滑舌悪い感じ」 というのがまた、落胆した信繁の気持ちを逆立てるのに一役買っているんだな(まあいい見方をすれば、ですよ…笑)。 まさみチャンは信繁のあまりに落胆ぶりに、「真田も人質の駒がいなくなって大変ですわねー」 みたいな、かなりキツイことがついポロっと出ちゃう。
この 「憎まれ口」 というのは信繁にハッパをかけて元気を取り戻してもらおう、というまさみチャンなりの浅い考えであることは明白なんですが(笑)、まさみのバズーカに信繁は怒りを抑えてただ彼女を睨みつけるだけ。
まさみバズーカが信繁の株価を動かさない(株価じゃなかった、心だ)原因と言えば、これまでまさみチャンが信繁にツンデレの 「ツン」 でしか付き合ってこなかったからで(笑)、自らの意地っ張りがもとで自らの恋心が成就されなくなっていく、という悪循環を生んでいるわけであります。
ああこれ、身につまされるな~(笑)。 好きなときは好きと態度で表せばいーのだ(笑)。 人生はやらない後悔より、やってしまってしくじった後悔のほうが、ずっと価値があるのだ(笑)。 なんの話だ(笑)。
信繁は 「なにも言わずに私の愚痴を聞いてほしい」 と、黒木華チャンに姉の松を助けられなかった後悔をグダグダ話します(笑)。
ここで信繁の落胆に対して、見ている側はかなり同情的立場であるはずです。 なぜなら我々は(いや、少なくとも私は)、「松みたいないいキャラを失ってしまうなんて、ドラマにおける損失だ」 と考えているからです。
そしてそこで信繁の告白により、信繁がかなりの自信家であったこと、そしてその自信が鼻先からぽっきり折れてしまったことを知るのです。
見ている側の 「松を失った残念な気持ち」 と信繁の 「松を守れなかった後悔の念」 を、ここで奇妙に結びつける。
この構造には、唸りますね。
そしてこの愚痴は 「自分なんか真田に必要ない」 というところまでエスカレートする。 これも構造的によく計算されているとつくづく感じます。
人間なんてラララーラララララー、じゃなかった、人間なんてものはですよ、誰かにただ自分のクヨクヨを話しているうちに、だんだん話がオーゲサになってくるもんなんですよ(そうなのか?)。
そしてそこまで弱気に走ってしまった自分に気付き、信繁は、「あの~、なんかしゃべっていただいてもいいですよ?」 と華チャンに言うんだな(笑)。 ホントは 「そんなことありません!」 と反応してもらいたかったもんだから(笑)。 「ハイ、ここはみなさん、笑うところでございますよ」 というぼくちゃんの声が聞こえそうでちょっとイヤなんだが(笑)。
で、華チャンは 「ひとつだけいいですか」 と前置きして、「もし危険が迫ったら、私を助けてくださいますね?」 だって(笑)。 くぉらこのオボコ娘がっ(爆)。
そしてふたりは、仲よく薪を割るのでありました(笑)。 そしてそれをまさみチャンは悔しそうに眺めるのでありました(笑)。
そのまさみ、滝川に人質に出されるばば様の草笛光子サンのお伴をしなければならなくなっている状況。 ますます恋が遠ざかっていく~。
そして信繁は 「本当は帰って来たくなかった」 真田の郷の風景を見て、自らの生まれたところを誇りに思う、という気持ちが芽生えるのであります。 それがさらに昌幸の心を動かしていく、というこの構造。
それ以外にも見どころ解説のしどころは多々あるのですが、とりあえず議論を 「軽さと落胆」 に絞りました。
ホントにいいドラマというのは、いろんなことを次々考えさせてくれるものです。
あ、書き忘れましたが、やはり三谷サン、松というおいしいキャラを、そう簡単には死なさないようです。
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「真田丸」 第6回 「軽い」 というベクトルを使った信繁の落胆
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