前回、第2週レビューのコメント返信で私は、「あさ(波瑠サン)が両替商に嫁いだ、という現在の時点で物語を面白くするのは、あさの算盤の腕前と、ビジネスとの関連性が大きく前面に出てくることだが、どうも片手間になりそうな予感がする」…と書いたのですが、第3週の内容はその予想を大きく裏切っておりました(反省…笑)。
ただその関連のしかたについては、不満があるようなないような(笑)。 それについては後述するとして。
式の日取りを忘れて出歩いていた新次郎(玉木宏サン)。 しかしそれ以外には取り立てて突飛な出来事もなく、今週展開した物語の大部分は、この新しい場所であさがなにを体験し、行動したかに費やされたのですが、その語り口はあくまで軽妙でした。
その軽妙さの根底にあったのが、あさが嫁いだ白岡家の家業、加野屋の 「風通しの良さ」 です。
嫁にでも行けば、そこでは頑張っていろんなことをしなければならない、というのがこれまでの朝ドラのセオリーだったように思うのですが、母親の風吹ジュンサンは朝寝坊だし、別になにもやってなくてもOK、芝居にでも行ったら?みたいな、すごく緩い雰囲気。
しかしだからと言って出しゃばって何かをやろうとしても、やっかみや横槍が入るわけでもなく、まあ水汲みでちょっとイケズをされる程度でしたがそれも大した怨恨が残らない。 何かを教えてもらおうとすると、みなさん嫌な顔もせずに付き合ってくれる。
こんなに苦労してない嫁、というのは初めて見る気がした(笑)。
ただそのなかで、時計代わりに見てると決して気付かないようなポイントが、ほんの数秒単位でインサートされる。 これが意外と、フツーに終始しそうなドラマにスパイスを与えているんですよ。
その大部分の動きというのは、新次郎と父の正吉(近藤正臣サン)に集中している。
新次郎はあさとの新婚初夜で、いちおうハグまでは果たすのですが(笑)ハグした 「流れで」 帯に手ぇかけたら、あさのほうも 「流れで」 まわし、いや違った帯に手をまわして両者がっぷり四つ(笑)、上手投げェェーーーっ!上手投げであさの勝ち…じゃなかった、投げ飛ばされて新次郎は小指にけがを負ってしまう。 新次郎はあさの様子に 「こりゃまだ子供や」、とその場をリタイアしたまま毎晩どこかに行ってしまうのです。
あさがそれを気に病んで毎晩眠れないのか、というとまったく無関係に大の字で寝てたりするんですが(笑)、こういう状態を父の正吉が咎めるのか、というとそうでもなく、ちょっとワケがありそうな顔をする。 ほんの数秒。 いや、1秒未満かな?
新次郎は新次郎で、ふつうここまで道楽をしていればなにか浮ついたような空気が醸し出されるはずなのだけれど、なにか確信を持って道楽をしているような模様。
だいたいですよ、祝言の日にいきなり三男坊(つまり新次郎の弟)が出てきて、ゆくゆくはこの弟の榮三郎が加野屋を継ぐさかい新次郎はその後見人として頑張ってもらいますーみたいな、ちょっとちょっとなにソレ、そもそもそれがよく分かんない、というか(笑)。
でもそういう体制にしよう、ということが既に、父親と新次郎のあいだで合意が成立していることが、「どうもなにかがある」 と思わせるんですが、これがなかなか気付かないような話の持ってきかたをかなり意図的にしている。
見ている者の気持ちをそっちに持って行かせないために思えるんですが、新次郎が夜な夜な通う場所はどこなのか、という話題が週の前半は中心になります。 「頼もうーーっ!」 と道場破りさながら(笑)あさが新次郎を尾行してやってきたのは、三味線のお披露目会。
旦那が夜遊びしてたらたいていは浮気なんですが(笑)。
それと同時に進行していくのは、新選組が加野屋に関わっていく様子。 ここでは数年前に大河ドラマ 「新選組!」 で土方を演じた山本耕史サンがまったく同じ役でゲスト出演する、という視聴者サービスまで行なわれるのですが、これはじっさいに新選組が加野屋のモデルとなった両替商に金を借りに来た、という実話を基にして、膨らませてあるようです。
史実とは奇妙なもので(笑)、新選組が活躍してたのは京都やろ? わざわざ加野屋のある大坂まで金を借りに来るんかいな?と思っちゃう。 しかし深く考えると、「京都で借りられなくなったから大坂に出てきた、つまりそれだけ借りまくってて困っていたのでは?」 という憶測が成り立つ(笑)。
この史実をこのドラマでは、あさがビジネスへの興味を喚起していく大きなファクターとした。
この組み合わせはうまいです。
しかしその端緒的なエピソードで、米会所という、まあ今で言えば証券株式市場みたいな場所で再会する五代才助(ディーン・フジオカサン)。 これがまた不自然だしてな(笑)。
どうもこの五代、あさに目をかけてるみたいなんだけれども、惚れとるつーわけでもない。
だって初見のとき、あさはこーんなに小さかったし(どーんなや)、それじゃロリコンだよみたいな(笑)。
そしてその再会の場であさが既に夫がいるということが分かったはずなのに別にそれで失恋したというふうでもない。
五代があさに手紙を寄こした時点で、あさのその快活さに新時代を見た、みたいな解釈がされていたようだけれども、それだけなのがちょっと弱いんですよ。
もうちょっと必然性が…(まあいっか)。
それと、あさが番頭の雁助(山内圭哉サン)に商売のからくりを教わるシーンがあったのですが、そこであさが取り出しましたる新次郎からもらったそろばん、それを使ってなに計算しとるんや?みたいな(笑)。
また、新選組から借り入れの申し出があってからあさは門外不出の大福帳を新次郎に持って来させ、1週間かかって借入金の貸し出し精算状況を調べるのですが、その調べ方をどうやっているのか、期日は、利息はどうなのかなど、詳細がほぼ伝わってこない。
別に伝える必要がないと作り手が判断しているならそれでもいいんですが、それがあったほうが、あさがどこまで商売のからくりを習得しているのか判明するし、当時の経済のありようなども立体的に浮かび上がってくるのではないか。
ちょっとそんな気がしたんですよね。
いずれにしても、このドラマでビジネスの話がされる場合、最も基本的な部分にあったのは、「信用」 という問題でした。
大福帳に興味を示すあさに、義父の正吉はこう言い含めます。
「先祖代々から使うてきた帳面だす。 ええ、まあ…お金の貸し借りとか、お米や砂糖の取引なんてぇのは、この中に全部書いてある。 けどこれは、おなごはんは見てはならんもんだす。
昔からのしきたりだしてなぁ。
両替商というのは、信用が第一。 その信用を守るためには、古うからいわれてる、このしきたりというもんを粛々と守っていかなあかん」
また番頭の雁助に商売を習うシーンでも。
「両替屋ちゅうのんは、金や銀を交換するのが仕事だす。 あとはお大名や商家や何かにお金を貸し付けてます。 我が加野屋は、長州藩、薩摩藩など、百数十の藩に貸してまして、額はざっと、百万両はありますやろかな」
「百万両! そないに貸してて大丈夫なんだすか?」
「そやから信用におけるところにしか、貸したらあかんのだすよ。 両替屋は、信用をお金に換えますのや」
ここであさがそろばん出して何かを計算するんですが、さっきも書いたようになにを計算しとるのやら…(笑)。
そのほか、あさは京都の母親(寺島しのぶサン)から意味深な歌の書かれた手紙を受け取ることで、時代の変わり目ということを強く意識していくのですが、ここで夜遅く、借金の申し込みに新選組が副長の土方を交えてやってくる(第17回)。
別に土方が来る必要はないように思うのですが(笑)先に書いたように視聴者サービスと、それほど隊が困っていたというのと、まあ両方考えられるとして(笑)。
その新選組に対して、あさはこう言い放ちます。
「幕府は今、どないなったはるんですか? 先ほど土方様は、『幕府最高(じゃなくて再興)』 と言わはりました。 もし幕府に何かあったら、その4百両、ほんまに返してもらえるんだすやろか?」
「何?」 とすごむ土方。
「いや…両替屋は、信用が何より大事だして、そやさかい、あなたさま方を信用してええもんかどうか思いまして…」
怒りだし腰のものに手をかける隊員。 義父の正吉は、嫁いできてから初めて、あさに怒鳴ります。 「はよう謝りなはれ!」 ガタガタ震えながら、あさは返します。
「謝れまへん! 刀と信用は、真逆のもんだす!
うちは、『お金返してくれはりますか』 て訊いてるだけだす! うちは、この家の嫁だす。 このお家守ることが、嫁の、うちの務めだす!」
土方は 「新選組を怖がらねえとは大した度胸じゃねえか」 と、返済を確約します。 「俺が生きていればの話だけどな」。
くぅぅ~~っ、カッコいい(笑)。 シラッと 「いい女じゃねえか」 なんて言ってからに(笑)。 ホリキタを、大事にしろよコンニャロ~~っ(爆)。
それはそうと。
この一件で先に書いたように大福帳の総洗いをするあさ(第18回)。
加野屋の経営的問題点を見つけ出したあさは蔵の中を確認してその実態を現状把握。 そして正吉に 「お金を返してもらおう」 と大々的にぶち上げるのですが、ここでの正吉の反応が、またよろしおましてなあ(笑)。
「お父様。 貸したお金、回収しませんか? すぐにでも貸付先まわって、貸したお金、返してもらうんだす。 戦が始まってしもてから慌てたんでは、遅いさかい。 (雁助に)期限とうに超えてんのに、まだ返してもろてへんお金がぎょうさんあるのと違いますか? 世の中かがまるで変わってしまうのやとしたら、人やお店かて変わっていかな、生き残られへんのやさかい!」
慌てて止めに入るうめ(友近サン)を制して、正吉。
「あさちゃん。
私はな、あきんどの家に、おとなしいだけの嫁は要らん。 あんたには、根性のあるごりょんさんになってほしいと思うてます。
けど、あんたの考えは、ちょっと浅はかやなぁ。
この加野屋の取引先はな、何十年、何百年という古ーいつきあいがおますのやで。
それを慌てて、取り立てに行ったりしたら、こら、うちが、そのお相手さんを信用してへんということになりますのや。
あんたが新選組はんに言わはったように、両替屋というのは、信用が第一。 お金という大切なもんを、扱うてますのやさかいなあ。
お互いにこう、まことの心を持って、信用をし合わんことには、どうにもならしまへんやろ?
まあまあ、いろいろ心配をしてくれて、ほんまにおおきに。 けど、店のことは、私らにまかせていただきまひょ」
ここで新次郎のことを、チラッと一瞥する正吉。 これだよ、気になるの(笑)。
その直後、「なんでそないに(商売のことに)一生懸命になれるのやろなぁ」 と感想を漏らす新次郎に、あさは言うんですよ。 「なんでそないに一生懸命やあれへんふりしはるんだす?」。 その屈託ない、何気ない言葉にギクッとする新次郎。 やはりなんかあるよ(笑)。
それはそうと。
このシーンには、単純なセリフ以外にいろんな情報が詰め込まれてます。
まず、ようお父はん、ガーとあさちゃんを怒らなかったなあいうの。
それってもうとっくにあさちゃんがなにか言いに来る、ということを見越していたんじゃないか、という。
だって部屋中大福帳だらけになるほど、門外不出の大福帳を新次郎が持ち出してたんですよ?(笑) 約1週間。
そして自分の非を察したときにすぐに謝りに入るあさ。 こういう素直な朝ドラヒロインは、反発買われませんよヤフー感想欄で(爆)。
そしてここまで言いたいことが言える、という、加野屋全体の自由な空気感が伝わってくる。
その自由な水の中を、闊達に泳いでいくあさ。
しかし物語は、はつ(宮崎あおいサン)が嫁いだ天王寺屋に移ると、途端に重苦しさを増すのです。
さっきの何げない言葉のあと、寄合に天王寺屋が来ないことを知ったあさは、心配になって天王寺屋へと向かいます。 はつの弾く琴の音を聞いたあさでしたが、はつはそのころ、天王寺屋の蔵に閉じ込められていた。
この第3週、はつは都合3回出てきたのですが、最初は夫の惣兵衛(柄本佑クン)に芝居に連れていってもらえる、という感じでまあまあ安心できた。 それが週の半ばで母の寺島しのぶサンが訪ねてきたときに、要らんこと姑の萬田久子サンに立ち聞きされてとても居心地悪そうだった。
それがこの週の終わりには、最初琴を弾いてて問題なさそうだったのに、訪ねてきたあさの声を聞いて出ようと思ったはつを、萬田サンはもう、なんつーか有無を言わさず蔵に押し込めてしまう。
これって飼い殺し状態、ってことでしょ。
こういう派手な実力行使は、もしかして初めてだったのか、はつはびっくりして閉じられた蔵の戸を叩くのです。
「いやや…。 開けとくなはれ! 開けとくなはれ!
あさ…。 あさ!
お願いします。 なんでも言うこと聞きます! もう二度と、勝手に表に出たりしぃしまへん!
せやから、お願いですから、出しとくなはれ…」
駆け付ける惣兵衛。 「惣兵衛。 出したらあかんで」。 冷たく言い放つ萬田サン。 惣兵衛は、つき従うしかありません。
「旦那様…。 助けとくなはれ。 旦那様、助けとくなはれ。 旦那様…旦那様…」
苦しそうな表情で去っていく惣兵衛。 遠ざかる足音を聞きながら、絶望していくはつ。
「旦那様…! 助けて…。
助けて…。
あさ…。
助けて! あさ」
もう、なんつーか。
ここのシーンだけで、一気にドラマのすべてをかっさらってしまう宮崎サン(笑)。 ホント、先週に続いて、タメイキが出ます。
加野屋で自由に泳いでいくあさと、天王寺屋で澱んでいくはつ。 その対比がこれほど鮮やかに展開するとは。
この惣兵衛、先週では新次郎に、母親に対する殺意まで告白していた。 今週初めの夫婦のなかよしぶりを思い返せば、この一件も惣兵衛の殺意に火を注ぐきっかけのひとつとなるのは、確実のように思われるのです。
面白くなってきたぞ。
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「あさが来た」 第3週 泳ぐあさ、澱むはつ
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